赤木凡豚の考察レポート

しがないSF好きな暇人の赤木凡豚です。各種考察や感想、思い付いたことなんかをつらつらと記録します

『PSYCHO-PASS』の考察

 おはようございます。さて、劇場版PSYCHO-PASS SS Case.2をみてふと疑問に思ったところがあったのでこれを今日は取り上げてみます。

 「国防省」。須郷さんのかつての職場であり、シビュラシステム導入後の省庁再編を経てなお残る役所の一つ。その施設は外務省と同様に厚生省から独立した管理権限が認められています。しかし国防省について劇中で詳しいことは説明されませんでした。そこでこれを考察して国防省国防軍の中をより詰めたいと思います。

 

1. 国防省設立の経緯

 現在の日本にあるのは防衛省です。ではどのような経緯で防衛省国防省になったのでしょうか。私が思うにその鍵は日本の鎖国政策にあります。

 数年前にアメリカ合衆国の覇権からの後退と中国の台頭に対応するため、アメリカ以外の国との軍事提携も考慮した集団的自衛権の行使が容認されたことは記憶に新しいでしょう。日本は自ら覇権国となるか周辺諸国の勢力が均衡するかのどちらかが満たされない限り平和にならない火薬庫のような場所に位置しています。過去であれば米ソ、近年であれば米中の勢力が均衡したために、また冷戦後から中国の台頭以前まではアメリカ合衆国の圧倒的覇権が存在していたために、日本は平和を謳歌できたわけです。しかし日本が地域一の大国となり、また周辺に直接的脅威が存在しないにもかかわらず、極東が不安定化する場合もあります。例えば中国大陸が不安定な場合です。中国大陸の混乱に下手に手を出せば、際限ない大陸の縦深に人も物も金も吸いとられて国力を浪費してしまい、結果的に覇権国の陥落に繋がることは、当初は在外邦人の保護を目的に出兵し、気付けば全面戦争に陥ってしまった過去の歴史からも明らかです。一方で中国大陸が無秩序なままの場合、日本海は大陸からの避難民と、避難民や沿岸部を襲撃する武装集団で溢れかえることとなります。現在のシリア情勢における地中海がより程度を酷くしたものとなって日本海に現れたと思ってもらえれば大丈夫です。したがって日本が安全であるためには中国大陸からの混乱や勢力伸長を振り払う力が必要なのです。

 『PSYCHO-PASS』における日本は世界で唯一秩序だった国家です。近隣の朝鮮人民共和国は『PSYCHO-PASS ASYLUM1』で崩壊したとされ、また東南アジアのSEAUnは最近まとまりつつある現状にあります。そして日本が鎖国をした時にはかなりの国が崩壊国家になっていたでしょう。しかしソ連崩壊後にソ連海軍が株式会社となって艦艇を売りさばいた様に、国家が崩壊しても軍隊は独自の集団として活動することができます。俗に言う「軍閥化」はその典型です。したがって日本が鎖国をした時点ではこうした旧正規軍の軍閥が周辺地域に屯していたはずです。これは本国が荒れ放題となった在日米軍も同様でしょう。もっとも『PSYCHO-PASS SS Case.2』で描かれた様に在日米軍は完全撤退して沖縄の基地も完全に返還されていたため、恐らく鎖国と同時に日米安保条約は解消され米軍は撤退しています。しかし外務省、そして戦後日本にとって日米安保条約は対外政策と安全保障政策の根幹を成す最重要条約です。これを破棄したということは、日本が安全保障の矛と盾のうち矛を放棄したということを意味します。周囲を危険な武装勢力に取り囲まれながらアメリカの矛を放棄した日本が安定を勝ち取るためには、当然新たな矛を自分で調達して中国大陸からの影響を排除せねばなりません。そこで完璧な盾として鎖国を維持する国境警備にならび必要となったのが、国外の脅威を事前に排除する攻性の実力組織だったのではないでしょうか。

 『PSYCHO-PASS GENESIS』によると、シビュラシステム導入期に厚生省と縄張り争いをしていたのは「警察庁」と「国土交通省」で、鎖国にともなって外向きの役所はその権限をかなり縮小しています。その筆頭が外務省で本省は霞が関から「出島」と呼ばれる福岡の人工島に移され、廃止された法務省の仕事であった入国管理を請け負っています。『PSYCHO-PASS GENESIS』で言及がなかったことから国防省自体はかなり初期にシビュラシステムと共存する関係になったことは疑いありません。過度な介入を阻止しつつ、鎖国の脅威となるものを国外で排除するという微妙な綱渡りのためには正確かつ冷静な状況分析と政治的判断が不可欠です。この点シビュラシステムは世界最高のスーパーコンピュータであり、人間よりこうした判断に長けています。したがって国防省がシビュラシステムと初期から共存し、日本に降りかかる火の粉を払う腕となっていたことは合理的に推察できます。

 国防軍がそうした国外の脅威を排除する組織であったことを窺わせる描写が作中にいくつか存在します。まず須郷さんらが運用していた航空ドローンは、劇中のシーンに基づけば兵装した上でSEAUnまで自力で移動できるだけの航続距離があり、治安維持や国境警備には過剰な装備品です。また須郷さんの所属していた特殊部隊の訓練は到底日本ではあり得ない亜熱帯のジャングルへの潜入を前提としたものでした。加えて『PSYCHO-PASS GENESIS』でドミネーター(スローター)の技術は周辺諸国を考慮して軍事転用していないという記述があり、現に作中や『PSYCHO-PASS2』でも国防軍の装備は実弾兵器で占められています。これは日本を軍事的脅威として周辺諸国が団結してしまわないよう配慮したのみならず、周辺諸国が21世紀の遺物のような兵器で紛争している(例:『劇場版PSYCHO-PASS』のSEAUn)中で、不用意にレーザー兵器技術を流出させて武装勢力が軍事力を強めてしまうことを防ぐためではないでしょうか。また装備品の観点でも、公安局と国境警備隊にはドミネーターが配備されているものの、国防軍にはドミネーターの技術を利用した兵器が配備されていません。したがって国境警備と治安維持は厚生省、それ以外の脅威、つまり国外の脅威の排除は国防省の所掌事務であると言えます。

 しかしこうした攻性の実力組織である国防軍は現在の日本国憲法と大きく矛盾する組織です。恐らく鎖国に伴って

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

という日本国憲法の前文が成り立たなくなったため、9条の改正も含めた大胆な改憲が行われたと考えられます。この際「防衛省」は「国防省」に名前を変更して専守防衛の組織から「国家防衛のために行動する攻性組織」に変革したと推察されます。

 今日はここまでとし、次回は国防省国防軍の組織について見ていきます。