赤木凡豚の考察レポート

しがないSF好きな暇人の赤木凡豚です。各種考察や感想、思い付いたことなんかをつらつらと記録します

疾風捉えたり

 『鋼鉄の咆哮2ウォーシップガンナー』というゲームがある。パラレルワールドに迷いこんだプレイヤーが、全世界を支配する「帝国」に対抗する「解放軍」と共闘し、世界を解放するーーというストーリーを口実に大艦巨砲主義を全面に打ち出した「ぼくのかんがえたさいきょうせんかん」を使ってバカスカ撃ちまくる愉快痛快爽快シューティングアクションゲームだ。今回はこのゲームの最初のボスである超兵器「ヴィルベルヴィント」を考察してみる。

 

基本スペック

超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント」級一番艦「ヴィルベルヴィント

全長600m(?)

基準排水量不明

最高速力80kn(ノーマル)

武装

35.6cm55口径3連装砲4基
12.7cm両用砲2基
40mmバルカン砲十数基
3連装魚雷発射管6基
12cm30連装噴進砲数基
ミサイル発射機数基

 

 何故「ヴィルベルヴィント」は開発されたのだろうか。解放軍3個艦隊を瞬く間に全滅させる強力無比な超兵器建造計画が誕生した背景には解放軍の存在はもちろんだが、それに加えて広すぎる帝国の支配領域の維持が関係している。これに先立ちまずは巡洋戦艦について見てみよう。

 元来「巡洋艦」とは、植民地の維持をするために本国から長距離行動をする必要のある国が、航行能力と居住性を確保しつつ速やかに移動できる機動力を備えた艦艇を必要としたために開発された艦種である。その後単なる警戒部隊や植民地警備艦隊としてのみならず、装甲を備えて正面切った戦闘もある程度可能な「装甲巡洋艦」や「防護巡洋艦」が誕生し、巡洋艦は戦力の一部となっていった。「巡洋戦艦」はこの内「装甲巡洋艦」の発展型として登場した「主力艦と等しい火力のある巡洋艦」である。巡洋戦艦の産みの親であるイギリスのフィッシャー大将はその任務について以下のように述べている。

  1. 主力艦隊のための純粋な偵察
  2. 軽艦艇を主体とした敵警戒網を突破しての強行偵察
  3. 敵戦艦の射程外においての敵弱小・中規模艦狩り
  4. 遁走・退却する敵の追跡・撃破
  5. シーレーン防衛

ここからわかるように巡洋戦艦は決戦兵力ではなく大規模な補助艦艇として計画された。

 しかし「ヴィルベルヴィント」は明らかに巡洋戦艦の設計思想を無視したものとなっている。個艦戦闘能力が解放軍3個艦隊を凌駕するなど、いくら解放軍が雑魚でもオーバースペック以外のなにものでもない。したがって「ヴィルベルヴィント」は、巡洋戦艦と名付けられながらも、その実態としてはアイオワ級戦艦の様にたまたま速度が速かった戦艦、所謂「高速戦艦」であることは自明である。そこで何故このような一点豪華主義的戦艦を建造する必要が帝国にあったのかが問題となる。

 帝国の支配領域と支配の安定性、そして解放軍の規模にこの謎を解く鍵がある。帝国の支配領域は全世界である。このパラレルワールドは現実の地球と全く同じなので今の世界をそのまま想像してもらって構わない。そう、あまりに広すぎるのである。もし解放軍の跳梁に対処すべく全世界にまとまった数の兵力を駐留させようと思ったら、帝国の補給線は延びきり解放軍による通商破壊が頻発するだろう。したがって帝国の基本的な国防戦略は、最低限の戦力を全世界に駐留させて必要に応じて遊撃部隊を派遣する内線戦略とならざるを得ない。この事は各ステージの帝国艦隊がさして大規模でないことと解放軍艦隊がある程度まとまった戦力を保有できていることから、帝国の支配は必ずしも完全なものではなく綻びがあること、現地の帝国軍は解放軍を独自に殲滅できないでいることが分かり、帝国軍の駐留戦力は解放軍に対して著しく優位というわけではないと推察できる。また崩壊後の帝国が4つに分かれたことから、しばしばみられる封建国家や連邦制の君主国家の常として国内には有力な政治勢力が複数存在しており、各地の軍権はそうした権力者に委ねられていたと考えられ、帝室直轄軍は各地の軍閥の統轄と戦略予備のような存在とならざるを得ない。一方でこのように帝国を捉えると、地域によって登場する艦艇が異なる理由や全く異なる超兵器が建造された理由もわかる。そしてこの遊撃部隊を担っていたのが「ヴィルベルヴィント」である。敵軍である解放軍は、世界各地の戦線を維持しつつも「ヴィルベルヴィント」討伐戦に3個艦隊も投入できる有力な反乱組織である。したがって帝国の遊撃部隊には、世界各地の解放軍が同時に攻勢を開始しても防衛線崩壊前に駆け付けられる快足と、有力な打撃部隊として活躍できる戦闘力が求められており、「ヴィルベルヴィント」はこれに合致した艦船となっている。