赤木凡豚の考察レポート

しがないSF好きな暇人の赤木凡豚です。各種考察や感想、思い付いたことなんかをつらつらと記録します

『イノセンス』考2

 では昨日に引き続き『イノセンス』について何となしに語っていきます。

 まずは主人公のバトーについて。彼は草薙と共に長く行動し、想いも寄せていましたが、草薙と違ってほぼ全身義体化しても実体としての自己を捨て去ってネットの海の生命体となることを受け入れていません。故に彼は人間とは何か、自分は人間かを確信できないでいます。このことはハッキングされて確保された後に「なぁ、俺のオリジナルの部分はどこにあるんだ?」と聞いていること、「タスケテ」と言うガイノイドを苦虫を潰したような顔で破壊していること(これは終盤のガイノイド戦とは対照的)、『GHOST IN THE SHELL』の草薙の部屋とは違い非常に文化的な部屋に住んでいること、またよくお酒を飲んでいることからうかがえます。特に部屋と犬についてですが、本来サイボーグである草薙やバトーにはそれこそ寝るスペースさえあればあとは機械の体が大体のことをこなしてくれるため、かなりシンプルな部屋で済むはずです。


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草薙の部屋の一部

ところがバトーの部屋は、


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この様になかなかお洒落で文化的なインテリアとなっており、しかも
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飼い犬そっくりのオルゴールまであるのです。(私もこんなお洒落な部屋に棲みたいものです。)するとバトーはただ寝食を過ごすため以上の意味をこの部屋に見出だしていると見るのが自然でしょう。所謂「こだわり」というものです。

 一般に人間と機械(もしくは人形)の一番の違いは主体性です。周囲の環境をあくまで所与のものとし、与えられた反応を出力するにすぎない機械(人形)と異なり、人間は周囲の環境を自己本位の形へと積極的に変化させていきます。この精神的主体性は『イノセンス』を見る上で重要な要素の一つですので、皆さん気に留めておいてください。

 話を戻しましょう。ベッド、床、大きい窓。それ以外に飾り気のない草薙の部屋と違い、バトーの部屋には内装へのこだわりがあります。こだわりを持ち、発露することは機械ならぬ人間だけが可能なことです。一方で床や机に散らばる缶ビールにも注目しましょう。『GHOST IN THE SHELL』で草薙が言っていたように、全身義体であればアルコールを瞬時に分解してすぐ素面になることができます。つまりバトーにとってお酒はジュースと大差ない代物な訳です。にもかかわらず何故これ程ビールを習慣的に飲んでいるのか。これこそ彼が自分を人間と確信できていない不安を象徴していると私は考えます。人間であれば本来、お酒を飲むと酔ってしまうはずなのに、機械が分解するためすぐ素面になってしまう。人間らしくこだわってみても、事実として自分は機械の塊であるという矛盾を自覚させる。お酒とはそのためのものではないでしょうか。

 『イノセンス』はそんな彼に一つの答えを出しています。その鍵となるのが「犬」です。次回は「犬」に焦点を当ててみていくこととします。