赤木凡豚の考察レポート

しがないSF好きな暇人の赤木凡豚です。各種考察や感想、思い付いたことなんかをつらつらと記録します

バチカン市国研究について3

 結論から先に申しますと、バチカン市国は世俗におけるローマ・カトリックの存立を外交上の国益におき、そのために「権力の棲み分け」を軸とした外交をしていると私は考えます。これだけでは「どうしたこいつ」となりそうなので、具体例をあげて説明していきます。

 2018年9月22日にバチカン市国中華人民共和国と司教任命権について暫定合意に達した云々という記事が新聞の一面を飾ったことを覚えている人もいるでしょう。今回はこれを例に説明していきます。

 司教任命権ってなんだよって思った人、「カノッサの屈辱」って世界史で習いませんでした?

 


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哀れハインリッヒ4世、跪いて赦しを乞う

 

この時同時に「叙任権闘争」という言葉を聞いたはずです。この「叙任権」こそ所謂「司教任命権」のことです。そう聞くと事の重要性が何となく分かっていただけると思います。もう少しローマ・カトリックの組織体系に寄せて解説します。カトリックという言葉が「普遍的」と訳されるように、ローマ・カトリックは初代教皇とされる聖ぺテロの後継者たるローマ教皇を頂点とした宗教団体です。そしてこの「普遍」性は、聖ぺテロ以来ローマ教皇に受け継がれてきた「権威」を他の司教が同様に行使できるようにするために教皇より授かる(叙階の秘跡)ことで成立しています。したがって司教の任免は「権威」を唯一与えられるローマ教皇に独占的に認められており、現在でもローマ教皇の許しなく叙階の秘跡を与えた者と与えられた者は、当該行為が実行されると同時に裁判抜きで破門される(伴事的破門制裁)と教会法典で定められております。司教任命権の重要性が何となく分かっていただけましたでしょうか。

 では何故これが中華人民共和国との間で問題となっていたのでしょうか。ここでまず「司教」について簡単に見てみましょう。ローマ・カトリックにおいて司教の持つ権限は絶大です。というのも教会法典において就任のために秘跡が必要とされる位階は「司教」と「司祭」と「助祭」しかない上に、司教には司祭と助祭の任命権があります。また司教は、それぞれの教会や教区のトップであり、地域的なことについてはローマ教皇から離れた独自の裁量でそこを統治することができます。ちなみに枢機卿大司教ローマ教皇といった肩書きを持つ人は、司教の上に更に肩書きが増えてるに過ぎず、位階においては司教という互いに対等な存在なのです。ところが中華人民共和国共産党政府は、司教をローマ教皇が決めることについて「内政干渉に当たる」とし、ローマ教皇庁から独立した人民自治と、中国人民による自主的宣教、中国人民による宗教的発展を主張する「愛国会」派を立ち上げてこれを政府公認の宗教団体としました。当然ローマ教皇庁はそんなもの認めません。折しも当時は朝鮮戦争が勃発して抗美援朝運動や反帝国主義運動が叫ばれていたこともあり、1953年にバチカン市国中華人民共和国は国交断絶。以来両国の溝はなかなか埋まらず現在に至っています。(私があえて「中華人民共和国」と書いているのは、こうした理由からバチカン市国にとっての中国が「中華民国」を指すからです。正確性を期すためにあえて長ったらしく書いています。ご了承ください。)

 長くなってきたので今日はここまでとします。次の記事をお楽しみに!