赤木凡豚の考察レポート

しがないSF好きな暇人の赤木凡豚です。各種考察や感想、思い付いたことなんかをつらつらと記録します

PSYCHO-PASS SS Case.2について2

 こんばんは。昨晩は眠たい頭に鞭打ちながらスパーリングロボに毒ガスの事実を教えたのは死ぬ直前の大友逸樹であること、大友逸樹と大友燐の復讐計画は異なることを書きました。因みに大友逸樹が大友燐に毒ガスの事実を教えた方法ですが、戦地から本国への回線が開かれていたことと彼自身が電子戦もこなせるであろう兵士であることから、短い簡単な情報だけなら軍の回線から送れたのではないでしょうか。ここについては私の憶測が先行しているので根拠は薄弱です。しかし突然須郷さんとの回線を遮断された大友逸樹が何かを悟って最後の記録を送る用意をしていても不思議ではありません。

 さて、今夜はまず2番目の疑問、須郷さんにメッセージ入りブランデーを残した理由について考えていきたいと思います。あのメモリーの中に入っていたのは秘匿されていた原潜の存在でした。そしてそれを頼りに地下ドックへ向かった須郷さんとの格闘戦の後、大友逸樹のスパーリングロボは「ここにいるってことはあのメッセージに気付いたってことだな」と語りました。恐らくこの語りはスパーリングロボが須郷徹平に打ち倒されることで発動されるものだったのでしょう。ですがわざわざこのようなメッセージを残した理由はなんだったのでしょうか。拙稿「PSYCHO-PASS SS Case.2について1」で申したように大友逸樹の復讐相手は組織です。したがって大友燐の復讐計画を通してみたときに上がるであろう須郷さんを復讐対象の旅団長と作戦本部長から遠ざけるためという理由は的外れと言えるでしょう。むしろ大友燐がその状況を利用して単身襲撃による復讐を計画したに過ぎず、大友逸樹は全く別の目的だったと考えられます。私が思うに当初あのメッセージが内部告発の材料兼交渉カードだったのは確実でしょう。しかし復讐計画の失敗を意味する自身の敗北を発動条件とした更なるメッセージを用意したことから、復讐開始後のあのメッセージの意義が須郷さんをあの場に連れ出してもう一度戦うことに変わったのではないでしょうか。まるで『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』みたいですね。もし須郷さんが気付かなければ無事組織への復讐を完了し、もし須郷さんが気付いたら須郷さんと戦うことができる。大友逸樹にとっては負けのない計画だったのでしょう。それの鍵となるのがあのメッセージだったのです。

 そして3番目の疑問。いつ頃この復讐計画は立てられたのでしょうか。私が思うにこの計画はそれほど準備されたものではないと思います。これまでも述べてきたように大友逸樹と大友燐は共犯のようでいてその根本は一致していませんでした。また手口もドローンによる銃撃と爆発という単調なものです。恐らく劇中で「訓練中の不慮の事故」に見舞われて亡くなった隊員がドローンを手引きしたのでしょうが、あまりに攻撃が散発的です。故にこの計画は手段だけ共有された上で各個に立案された一過性のものであると言えます。

 以上をまとめると、原潜の使い道が復讐であることは間違いないものの、大友燐の考えたような餌としてのみならず、国防省と外務省に止めを刺す銀の弾丸として大友逸樹は使おうとしていたのでしょう。劇中で禾生局長が懸念していた国防軍のクーデター疑惑。もしも隠匿された原潜の存在が明らかとなり、しかもそれが外務省の受け持ちであったかつての日米安保条約の残滓だと分かれば、シビュラは間違いなく両省の特権を叩き潰して粛清するでしょう。原潜の存在を公開すること、それこそが大友逸樹にとっての原潜の使い道だったのではないでしょうか。

 一応結論を書いたところで余談です。私が思うに二人の復讐計画こそ『PSYCHO-PASS SS Case.2』のテーマである人間関係と相互理解の象徴と言えるでしょう。フットスタンプ作戦に人生を狂わされた二人が、ドローンによる国防省と外務省への攻撃を通して復讐を達成する。大枠は同じなのに二人の見ている先は最後まで一致しませんでした。自分の憎しみを和らげるために大友逸樹を利用して正当化した大友燐。組織への復讐と実行する過程で須郷さんとの再戦を望む大友逸樹。私はずっと不思議だったんです。なぜ復讐を遂げる大友逸樹が大友燐に言及しなかったのか、と。恐らく彼は大友燐が自分のために破滅的な復讐をすることなく、強く清らかに生きてくれることを確信していたのではないでしょうか。故に彼はこの復讐を自分だけのものと最後まで考えていた。だが現実はそうならなかった。どんなに分かり合えているつもりでも、その実人間は根元的に孤立した存在であることを痛感させられる、そんな映画でした。(了)